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oniku

・生まれも育ちも現在も(未来も?)大阪

・事業会社3社で12年以上ブランドマーケティングを実行中の現役中堅マーケター

・公益社団法人日本マーケティング協会認定資格「マーケティング・マスター」

・マーケティング自体が好きで、ほぼ趣味でもあり、これまで読んだ関連書籍は121冊 ※2024年12月時点

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57.脳の記憶のメカニズムが分かると、ブランド認知や想起の重要性や道筋が分かるという話

マーケティング体系(基礎・フレームワーク)

人間の記憶のメカニズムは、私が思っていたよりもダイナミックで流動的。まだまだ未知な部分も多い分野ですが、現状分かっている記憶の長期保存への道筋や、逆に忘却する理由などが分かると、ブランディング目標の一つである「ブランド想起」のヒントになります。
人は日々大量の情報を取捨選択し、絞り込みをかけていく。そして不要な情報は、そもそも記憶すらしないということを肝に命じておく必要がありますね。

脳科学的記憶のメカニズム

まず最初に、私たちの脳がどのようにして情報を記憶するのか、そのメカニズムは複雑ですが、大きく分けて3つのプロセスと、記憶の種類によって分けられます。

​記憶の3つのプロセス

​STEP1 ​記銘(きめい): 新しい情報を覚え込み、脳に取り込むプロセスです。符号化とも呼ばれます。

STEP2 保持(ほじ): 取り込んだ情報を脳内に保存し続けるプロセスです。貯蔵とも言えます。

STEP3 想起(そうき): 保存されている情報を必要に応じて取り出すプロセスです。「思い出すこと」や、「検索」とも言えます。

この3つのプロセスがスムーズに連携することで、私たちは物事を記憶し、思い出すことができます。

​記憶の種類

​記憶は、情報を保持する時間の長さによって、大きく3つに分類されます。これは「記憶の多重貯蔵モデル」として知られています。

​1. 感覚記憶
​五感(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚)から入ってきた情報を、各感覚器の中でほんの一瞬(約0~2秒)だけ保持する記憶です。例えば、目の前の景色が一瞬で消えても、その残像がわずかに残るような感覚です。この膨大な情報の中から、注意を向けられたものだけが次の短期記憶へと送られます。

​2. 短期記憶(記憶の仮置きと一時保存)
​短期記憶とは、感覚記憶の中から、意識的に注意を向けた情報が、脳の前頭前野に仮置きされ、その後より重要そうだと判断された情報が、海馬によって一時的に保存された記憶のことです

仮置きできる時間は数十秒程度と比較的短く、一度に覚えられる量も限られています。脳のワーキングメモリーとも言われ、一般的に7±2個程度と言われています。例えば電話番号を一時的に覚える、会話の内容を少しの間覚えておく、といった場面で使われます。
​次に記憶の一時保存は、記憶の司令塔である海馬(かいば)という脳の部位が深く関わっています。海馬は、仮置きした新しい情報を一時的(数時間〜数週間程度)に保管し、それを長期記憶に送るかどうかを判断する重要な役割を担っています。

​3. 長期記憶
短期記憶にある情報が、何度も繰り返し使われたり(リハーサル)、感情と結びついたりすることで、長期間にわたって保存される記憶です。容量にはほぼ制限がなく、一度定着すると長期間忘れることはありません。自分の名前や家族の顔、自転車の乗り方、歴史の知識などがこれにあたります。
​長期記憶は、海馬から大脳皮質へと情報が移されることで定着します。

​記憶の定着を支える脳の仕組み

​記憶がどのようにして脳に「刻まれる」のか、その鍵を握るのがシナプスの可塑性(かそせい)です。シナプスとは、脳の神経細胞(ニューロン)同士のつなぎ目のことで、情報を伝達する重要な部分です。
​学習や経験によって、特定のシナプスの情報伝達効率が長期間にわたって向上する現象を長期増強(LTP: Long-Term Potentiation)と呼びます。これが、記憶が定着する細胞レベルでの基本的なメカニズムであると考えられています。つまり、何かを学ぶと、関連する神経細胞間の結びつきが強まり、情報が伝わりやすくなるのです。

​このように、記憶は単一の現象ではなく、「記銘」「保持」「想起」というプロセスを経て、情報の重要度に応じて「感覚記憶」「短期記憶」「長期記憶」へと振り分けられ、最終的には脳の神経回路の変化として保存される、非常にダイナミックな仕組みなのです。

マーケティングへの応用

記憶のメカニズムとマーケティングにおけるブランドの「助成想起(助成認知)」と「純粋想起」は、情報を脳からどのように取り出すか(想起)という点で密接に繋がっています。
端的に言えば、ブランドの助成想起は「再認」、純粋想起は「再生」という記憶の想起プロセスにそれぞれ対応しています。

記憶の想起プロセスとの対応

記憶を思い出すプロセスには、大きく分けて2つの方法があります。

  • 再生(Recall): 何の手がかりもなしに、記憶の中から情報を自力で引き出すことです。例えば、「昨日の夕食に何を食べましたか?」と聞かれて思い出すのが「再生」です。
  • 再認(Recognition): 何か手がかりを与えられたときに、「これを知っている」と認識することです。例えば、レストランのメニューを見て「あ、昨日食べたのはこれだ」と気づくのが「再認」です。

一般的に、手がかりがある「再認」の方が、手がかりのない「再生」よりも簡単です。

マーケティングとの繋がり

この記憶の仕組みが、そのままブランド認知度の測定に使われています。

純粋想起(Unaided Awareness)= 再生

純粋想起は、手がかりなしでブランド名を思い出してもらうことです。

  • 調査方法: 「〇〇(商品カテゴリー)と聞いて、思い浮かぶブランドは何ですか?」といった質問をします。
  • 記憶のメカニズム: 消費者は、自分の長期記憶の中から、特定の商品カテゴリーと強く結びついたブランド情報を自力で「再生」する必要があります。
  • ブランドの強さ: 純粋想起されるブランドは、消費者の記憶に深く、そして強く刻み込まれていることを意味します。これは非常に強いブランドと言え、消費者が何かを買おうと思った時に、最初に頭に思い浮かぶ選択肢(第一想起:Top of Mind)に入っている可能性が高いです。

助成想起(Aided Awareness)= 再認

助成想起は、ブランド名やロゴなどの手がかりを与えられて、そのブランドを知っているかどうかを思い出してもらうことです。

  • 調査方法: ブランド名やロゴのリストを見せて、「この中で知っているブランドはどれですか?」といった質問をします。
  • 記憶のメカニズム: 消費者は、提示された手がかり(ブランド名)を見て、自分の長期記憶の中にある情報と照合し、「知っている」または「見たことがある」と「再認」します。
  • ブランドの強さ: 純粋想起されなくても、助成想起されるブランドは、消費者が少なくともそのブランドに接触した経験があることを示します。店舗などでそのブランドのパッケージを見かけた際に、「あ、これ知ってる」と思い出してもらう段階です。

マーケティング戦略への応用

マーケティング記憶のプロセス消費者の状態
純粋想起再生(手がかりなし)「〇〇が欲しいな」→「そうだ、あのブランドにしよう」
助成想起再認(手がかりあり)店頭で商品を見て→「あ、このブランド知ってる」

このように、マーケティング担当者は、自社のブランドが消費者の記憶の中でどのレベルにあるのか(純粋想起されるのか、助成想起の段階なのか)を把握し、目標に応じて戦略を立てます。

  • 新ブランドの導入期: まずは名前を覚えてもらうために、例えば広告などで繰り返しブランド名を提示し、助成想起(ブランド認知)の獲得を目指します。
  • 成長期のブランド: 競合との差別化を図り、CEP(特定のオケージョンやニーズなどの想起のきっかけ)とブランドを強力に結びつけることで、純粋想起、さらには第一想起される存在を目指します。

記憶のメカニズムを理解することは、消費者の頭の中にいかにしてブランドを刻み込み、必要な時に思い出してもらうかという、マーケティングの根幹に関わる重要な視点なのです。

純粋想起ブランドへの道筋

結論から言うと、純粋想起されるブランドになることは、消費者の脳内に、特定カテゴリーとあなたのブランドを結びつける「太くて、迷わない神経回路(ニューラルネットワーク)を構築する」ということです。

手がかりなしで思い出せる「再生(Recall)」は、ぼんやりとした記憶では起こりません。脳が特定の質問(例:「喉が渇いたな、何を飲もう?」)に対して、自動的に、そして最も速くアクセスできる答えとして、ブランドが想起される状態を目指す必要があります。

そのために、脳のメカニズム的に有効な4つのアプローチをご紹介します。

1. 記憶の痕跡を「強く、太く」する(長期増強の促進)

記憶の正体は、神経細胞(ニューロン)間の結合(シナプス)が強化される長期増強(LTP)という現象です。この結合を強力にすることが全ての基本です。

具体的な方法:計算された反復(単純接触と分散学習)

  • 同じ情報に繰り返し触れると、関連するシナプスの結合が物理的に強くなります。ただし、一度に詰め込む(集中学習)よりも、一定の間隔を空けて接触する(分散学習)方が、記憶の定着に圧倒的に効果的です。脳が一度忘れかけ、再び思い出すというプロセス(想起努力)を経ることで、記憶がより強固に再構築されるためです。

2. 強くかつ複数の「カテゴリー想起ポイント(CEP)との結び付き」や「ブランドの独自資産」を作る(連合記憶の形成)

純粋想起は「手がかりなし」で思い出してもらうことですが、実際には消費者の頭の中にある「カテゴリー」や「ニーズ」、「連想イメージ」が内部的な手がかりとして機能します。この内部的な手がかりとブランドを強力に結びつけることが鍵です。

具体的な方法:特定のカテゴリーと強力に結びつける

  • 私たちの記憶は、関連情報がネットワークのように繋がった「連合記憶」として保存されています。例えば、「宅配便」というノード(神経細胞群)が活性化されたときに、最も強く繋がっている「ヤマト運輸」のノードが即座に発火する、というイメージです。
    • マーケティングアクション: 「〇〇といえば、[自社ブランド]」というポジションを確立する。「フリマアプリならメルカリ」「エナジードリンクならレッドブル」のように、カテゴリーリーダーとしての認識をあらゆるコミュニケーションで徹底する。

具体的な方法:覚えやすい記号(ブランドの独自資産)を作る:

  • 音(ジングル)、映像(キャラクター)、言葉(キャッチコピー)は、それぞれ脳の異なる領域(聴覚野、視覚野、言語野)を刺激し、記憶のフックを増やします。特に、メロディのような非言語情報は、感情や情景と結びつきやすく、非常に強力な記憶のトリガーになります。
    • マーケティングアクション: Intelの「インテル、入ってる」のサウンドロゴ、マクドナルドの「I’m lovin’ it」のメロディのように、耳に残るサウンドや、覚えやすいキャッチコピーを開発し、一貫して使用する。

3. 「感情の力」を利用する(扁桃体の活性化)

感情を揺さぶる出来事は、そうでない出来事に比べて圧倒的に記憶に残りやすくなります。これは、感情を司る扁桃体(へんとうたい)が、記憶の司令塔である海馬(かいば)を活性化させるためです。

具体的な方法:物語(ストーリー)を語る

  • 扁桃体は、その情報が「生存にとって重要かどうか」を判断する役割も担っています。感情が動く(面白い、感動する、共感する)ストーリーは、脳に「これは重要な情報だ」と認識させ、記憶に残りやすくします。いわば、記憶に「感情の蛍光ペン」でマークするようなものです。
    • マーケティングアクション: 商品のスペックを羅列するのではなく、ブランドの誕生秘話、開発者の情熱、顧客の成功体験などを感動的なストーリーとして伝える。CMやウェブコンテンツで物語性のあるコンテンツを発信する。

4. 「体験の一貫性」で記憶を補強する(予測とパターンの形成)

脳はパターンを好み、次に何が起こるかを予測しようとします。ブランドとの全ての接点(広告、店舗、商品、サポート)で一貫した体験を提供することで、脳内のブランドイメージは補強され、混乱なくスムーズに記憶されます。

具体的な方法:ブランド体験の統一

  • ロゴ、色、デザイン、接客態度、メッセージなどが一貫していると、脳はそれらを一つのまとまった概念(スキーマ)として効率的に処理します。逆に、体験に一貫性がないと、脳はそれを別の情報として処理しようとし、強力な単一のブランドイメージが形成されにくくなります。
    • マーケティングアクション: Apple社のように、製品デザイン、店舗の内装、広告のトーン、ウェブサイトのUI/UXまで、全ての顧客接点で一貫した世界観を徹底する。

まとめ:純粋想起へのロードマップ

マーケティングアクション脳科学的な狙い目指す状態
計算された反復・接触シナプス結合の強化(長期増強)記憶の痕跡を物理的に太くする
カテゴリーとの強力な紐付け連合記憶のネットワーク形成「〇〇といえば…」の問いに自動的に反応する回路を作る
ブランドの独自資産(音・言葉)の活用複数の脳領域を刺激し、記憶のトリガーを増やす思い出すための「とっかかり」を脳内に多数設置する
感情を揺さぶるストーリー扁桃体を活性化させ、記憶の定着を促す「重要情報」として記憶にマーキングさせる
一貫したブランド体験脳のパターン認識機能を活用し、記憶を補強する混乱のない、単一で強力なブランドイメージを構築する

これらのアプローチを長期的に、そして一貫して実行することで、ブランドは単なる「知っている」存在から、顧客がニーズを感じた瞬間に無意識的かつ自動的に思い浮かべる「純粋想起」される存在へと、脳科学的に進化していくことができるのです。

参考にブランディングについてまとめた記事はこちら

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